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 「月牙‘金産’」は両端が使える

「月牙‘金産’」を使うその敵は、悟空が三十余合も打ち合ったが勝負がつかないため、八戒が挟み討ちで助太刀したが、9つの首があって360度が見える怪物だったわけです。

訳文では
『八戒が背後から襲いかかると見てとるや、すぐさま月牙‘金産’のいしづきでまぐわを受け止め、先では鉄棒を受け止める。』
とあり、いしづきに傍点がある。

石突というのは、柄の末端。刃の反対側です。
キノコで言えば根っこ部分。

話が横道ですが、八戒の武器は、御存知のとおり「上宝沁金のまぐわ」、九歯の熊手です。
熊手の技法は、蒋維喬老師の『武藝全書』華聨出版社1972に、「二十一法」が図入りで掲載されており、
「■
(金へんに巴)頭用法。與斧略同。斧首重■(石へんに欠)劈。■(金へんに巴)頭首重築撃法。」
とある。
斧の技法も同書にありますが、八戒のは太上老君特製の神器だから5048斤あり、そうそう軽い攻撃ではありません。
八戒は落ちぶれたとはいえ、かつては天の川の水軍の司令官をやってた武神で、それを知ってる味方の神々は、天竺への旅の途中でも、彼を元帥と呼んで敬意を払ってるくらいです。

背後にも目のある敵が、ただでさえ正面の悟空と戦いながら、背後からの八戒の打ち込みを石突で受け止めた…。
この言い方だと、
両頭の武器を使っているニュアンスです。

 

 「月牙‘金産’」の石突は槍?

その敵が使う「月牙‘金産’」というのは、どんな構造か。
平凡社『西遊記』には、明の時代に刊行された李卓吾批評本のイラストが転載されてます。

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     ↑やはり突起あり

訳者の注として、こう書いてある。
『月牙‘金産’ 明代の兵器。石突きがするどく、この部分でも敵を突くことができる。刃の部分が「月牙」(みかづき、とルビ)型をしているので、この名がある。』

ここで注意しなければいけないのは、訳者は石突側が槍だとまでは言ってないということです。
鋭くて、突ける、と言っているだけです。刺せるとは言ってない。

日本の武術に詳しい人は、常山流(石突側が槍になっている薙刀)をなまじ知っているものだから、鋭い石突と聞いて、刃が付いてるものと早急に判断してしまう。

 

 槍には見えない

そして、訳者が用意した「月牙‘金産’」の図も添えられているのですが、こんな感じ。

      籐だか糸だか、ずいぶん巻いてある様子
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これの石突部分を大きく描きます。

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この形なら、刃とは思えません。
笹穂槍に見えなくもないですが、単なるゴッツい石突にも見える。

というのは、長兵(中国の長柄武器)には、しばしば、こういう石突がついているからです。
大刀(大薙刀)の石突をお目にかけます。

中国では、槍は、茎(なかご。柄の中に刃を差し込むタイプ)のやつもないこともないですが、普通は、袋槍つまりキャップ状というかソケット状の、刃の中に柄を差し込んだやつです。

日本で言えば石突程度のものでも、とにかく尖った金属が棒にハメてあれば、棍ではなく槍と呼んでいる。
なにしろ、中国では、槍や戟には石突がついてなくて、刃の反対側の末端には何の金具もなく、木のままになってることが多いくらいなんで。

例の文化大革命以降、中国(大陸本土、共産中国)では、近代化と称して、武術から殺伐とした雰囲気を消す方向にあり、兵器は器械と呼び、新体操の道具くらいにしか思っていないので、刀や剣もペラッペラの薄いやつ、棍や槍もすぐ折れるような軽いやつを使い、力強く速く美しい動作でポイントをかせぐ競技、まったく体育になってしまっている。
金属部分は、せいぜいアルミ合金です。
鉄で作って、焼きはなくても削り出して、いくらかは刃がついたやつも売ってますが、それはどちらかというと武術やってないオタク向けに日本で作ったものであり、実際の大会などではめったに使われません。

だから結局、石突がどのくらい鋭いかは、実物(骨董としての)を見ないことにはわからない

 

 石突のない「月牙‘金産’」もある?

『少林十八般兵器』の図では、「月牙‘金産’」の石突側には、なんの金具もついていない!

武術書なんだから、技法に使う重要な部品なら、描かないわけはないでしょう。
ただ、この本は版下の貼り方がひどく雑で、絵の続きがあったのに欠けているような印象も受けますが…。

日本では槍や薙刀にも必ず鞘をつけるので、石突の金具が要るんです。
石突側を、ある程度固い所(たとえば石畳)にカツーンとぶつけてやると、その振動で鞘がゆるむので、あとはちょっと振れば鞘が外れてくれる。

とりあえず、刃が三日月(月牙)だから「月牙‘金産’」と名付けられた、と言うからには、石突がなくても、三日月刃がついた棒なら「月牙‘金産’」かもしれないという可能性は残しておきます。

 

中国は広大な国土に多民族がひしめいて、さまざまな武器があるので、一概に定義は難しいと思いま…それを言うと話が終わりですが。 

 続く→ 

 

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