←戻る リュウテキバって、何? 

 

流鏑馬(やぶさめ)は、騎射(馬上弓術)のジャンルのひとつで、2町(約218メートル)の馬場に3つのマトを設置し、疾走する馬上から、鏑矢(かぶらや。笛がついていて音が鳴る矢)で、連続して射抜くというものです。

穴様を撮影してきてお目にかけるつもりでいましたが、見のがしてしまったので、予定変更して、俺が以前から考えてたことの中間報告を書きます。以下2点。

 なぜヤブサメというのか
これが、バジョウシャとかナガシウチとか言うなら納得もしますが、ヤブサメというと、何か古語から引っぱってきた言葉という印象を受けます。
マトが3つあるから三的という別名もある。別名で呼ぶということは、それはそれで意味がありそうです。

 なぜ「流・鏑・馬」か
これが「薮雨」とか「矢付早馬」だったら納得もしますが、リュウテキバという漢字を当てる理由が釈然としません。
流れるマトを鏑矢で馬上から射る、たしかに字の使い方は合ってますが、流的鏑でも駆鏑でもよさそうなもんでしょう。

 

 当時の発音

まず、言語学のほうからの見方。
増田弘先生の『邪馬台国音韻考』の記述を要約すれば、こうです。
発音記号で、eがさかさまになったやつ、Sの間のびしたようなやつは、表示されないので、似た文字で勘弁してください。

  li∂u → ユゥ → ヤウ
奈良時代の日本語では、ラ行が語頭に来ない。
韓国語では現在でも、流はユゥと発音する。
∂は、日本語にない音だから、aまたはoに変化する。

  t∫iak → チャ → サ
奈良時代の日本語には促音も拗音もないので、kは欠落し、チャはサになる。

  ma → マイ → メ
韓国語の接尾語に、呼び名につけるiがあり、古代日本語にも存在した。
古代日本語は重母音が苦手。ウルサイがウルセになるように、母音融合がおきて、ma+iがmeになる。

だからヤウサメだが、古代日本語は重母音が苦手なので、子音が挿入されてヤブサメ。

たしかに、今しゃべっても、リュウチャクマは容易にヤウチャッメに「なまる」と思います。
武術には、馬手(めて)なんて言葉もあるんで。

同書では、春日、日下、飛鳥など、なんでそう書いてそう読むのかということを、見事に解決なさってます。
古代日本語は、き・け・こ・そ・と・の・ひ・へ・み・め・も・よ・ろの発音が2種類ずつあり、サ行のいくつかはシャとかツァのように発音し、ち・つはティ・トゥ、ハ行はファ、さらに古くはパ、というようなことは、増田先生に限らず、言語学ではもう定説のようなので。

しかし、この考え方では、古代中国にリュウチャクマという騎射があったことが前提になる。
「流・鏑・馬」がどう読まれようが、そもそも、なんで「流・鏑・馬」なのか、です。

字が先にあって読み方が生まれたのか、読み方が先にあって文字を当てたか。
これは、古代中国の騎射の資料が手元にないので、俺にはわかりません。蒋維喬老師の『武藝全書』に、中国武術の弓術は載ってますが、それは徒歩です。

 

日本の弓術は、南方海洋民族系で森林用で徒歩の弓術から、大きな弓を必ず縦にして使うという特徴を取り入れ、モンゴル系で草原用で馬上の弓術から、複合素材の弓を親指で引くという特徴を取り入れた、ミックス技法です。

日本人のルーツを調べていくと、バイカル湖周辺や朝鮮半島など北方系の特徴と、雲南省やポリネシアなど南方系の特徴が、両方入っていて収拾がつかないというのは御存知のとおりです。

 

 いつから流鏑馬か

流鏑馬がおこなわれ始めたのは平安時代です。
平安時代といっても約400年もあり、平安時代のいつからかというと、それは定説がくつがえってるので後述します。

平安初期には、促音拗音は使われるようになった。
平安中期には、あ行のイエオ、や行のエ、わ行のヰヱヲの使い分けが変化した。
ラ行で始まる言葉が使われ始めたのも平安時代。

これは全部、同書の述べるところです。平安時代に大きく発音が変化している。仏典の研究の必要から、五十音も整う。

ということは、奈良時代すでに「流鏑馬という表記」と「ヤブサメという言葉」が両方とも存在していたということも前提にしないと、奈良時代の発音がどうこうは意味をなさない。

考古学で「いつからか」というのは、調べれば調べるほど古い例が見つかるものです。
ことによると、流鏑馬も競技自体は奈良時代までさかのぼらないとも限りませんが、ここで問題なのは、その呼び方です。

 

 ほかの名前でやっていた

単なる騎射なら、奈良時代すでにさかんにおこなわれていたことが『続日本紀』にいくらでも書いてあります。
呼び方はともかく、疾走する馬上から射るというのは、乗馬と弓矢があれば、いつの時代もやってたはずです。

じつは『日本書紀』に「馬的射」「騁射」「馳射」という言葉があるそうです。
これは案外、重要かもしれません。

漢字辞典に載ってる中国語発音ではこうなる。
「馬的射」は「 ma + di (またはde)+ she 」
「騁射」は「 cheng + she 」
「馳射」は
「 chi + she 」

ふたたび増田先生の理論で、奈良時代の日本語発音。

「ま」は現在と同じ。
「ぢ」は「ディ(di)」。
「じ」と「ぢ」は区別して使い分けていた。
「せ」は諸説あるが、「セ」「シェ」「ツェ」。

「ち」は「ティ(ti)」。チ(chi)はない。
「し」は「ツィ(shi? ti?)」かもしれない。

やはり、リュウテキバじゃないとヤブサメにならないですね。ならサメに近そうですが。

 

次回は『貞丈雑記』の「矢馳せ馬」説を御紹介します。結論から言えば、俺はこっちの説をとってます。

 →続く 

 

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