←戻る 

武術の教程と、伝書の順番 2

 

 奥伝

このへんから、神技という領域になる。
技を超越する段階です。
まあこんなもんかと思ってた道の本当の厳しさを改めて思い知られ、まだずっと先があったことに絶望する。

今まで教えたのは、一応の理屈とか知識であって、じつは全部無意味なのだ、本当の達人はただ手首をひねるだけ、それを得意技にしてるということは誰もがわかりきっていて警戒しているはずなのに必ずくらってしまう、人を斬るというのはただ上げた刀を降ろすだけのことだ、冴えまくってキレた技というのは、こう来たらこう受けてこう返してなんてことではぜーんぜん対応できないのだ、おまえは初伝をきちんとやったか? たしかに技はたくさん知ってるがどれも不完全、なぜなら、先人が残したすばらしい技を、低い実力と浅い世界観と勝手な基準で使っている、精神性の高い東洋哲学の表面的な断片ばかりを西洋科学のスポーツ理論で扱っているにすぎない、ほかでもないおまえ自身が、せっかくの技の可能性をせばめて限界を作っているのだ、このままでは一生達人になれないな、なんてことを言われる。

てなわけで、涙目になりながら、質というか次元の違う練習が始まる。
神技というのは神がかった技だから、呼吸とか無念無想とか、神秘的な勉強も佳境に入ってきて、古神道か密教か禅をやる。

どうにか自分なりの答えを見つけて、ここをクリアした人のうち、デキのいい人は塾頭とか筆頭とか支部長とかになり、道場主の次くらいに偉い立場になる。

歳くっていれば、相談役、後見人、重鎮、先達、御意見番、長老などと言われて、道場主ではないにしても、かなりいい顔。
このくらいの地位に、ずっととどまる先生もいます。自分の道場を持てるくらいに上達しても、御礼奉公といって、しばらくは御世話になった道場で指導員をやるものなんですが、そのままずっと居る人。自分で道場を開くのが面倒とか、代表ってガラじゃないとかおっしゃる。
自分が習った道場にずっと居ると、ずっと先輩に頭が上がらなかったり、後輩に先を越されて居心地が悪かったりするから、別の団体に移って、この位置におさまることもある。

このへんにならないと他流試合をさせない団体もあり、あの先生はどういう役職ですかと聞くと、「道場破りを待ってる人(笑)」などと、ステイタスのように言われることがある(現代でも)。
逆に、今までは試合してたのに、このへんからはパッタリしなくなる場合もあり、大会では審判員しかやらない、いわゆる現役卒業になったり、道場内の紅白試合や総当たりの時も別扱いで、なんか模範演武みたいなことしかやらない。

また、医術や呪術は、このへんにならないと教わらないという団体も多い。

これでもう、だいたい皆伝です。だいたいというのは、まだ先があるから。
本当の皆伝とか免許ってほどでもないが、指導員として一応の完成。指導者養成コースをおさめたということだから、指南免状などとも言う。開業免許。仮免。

 秘伝

いよいよ、その流派の売りである必殺技を学ぶ。
剣術なのに刀を使わないとか、二刀流なのに片方を投げて一刀になっちゃうとか、矢や手裏剣なのに飛ばさないで手に持って刺すとか、薙刀や槍なのに短く持って使うとか、発想が逆方向のケレンな技もあるから、基礎をやって悟りも開いた人でなければ、こんなの知ったら邪道になっちまうというような秘密の内容

あるいは、その技自体はかなり早くから習っている技だったりするのだが、あの技にはこういう意味もあったのだ、敵を殺す場合はここをこうする、今まで呼んでたのは俗称で本当の技名はこうだ、なんていう「裏の裏」「奥の奥」を聞かされるらしい。
そう言われてみると、よくもまあ、この技とこの技がセットになってるもんだ、うまい題名つけたもんだ、ということがわかって、改めて開祖の偉大さがわかるものらしいです。

言いたかないけど、これはカネとコネという一面が大きい(実力や努力は当たり前すぎて、そんなのは誰でもやる。それ以外の、なにか決定的なプラスアルファ)。

この段階をやった人だけが、本当の意味で言うところの皆伝、もう教えることは何もないという最終目録をもらう。印可(允可)とか灌頂です。
独立を許されて、自分の道場を開いたり、別の流派名を名乗ったりすることもある。
扇に教訓を一筆入れてもらうこともあり、これは「奥義」にかけたシャレ。
この段階を指南免状と言う場合もある。

読み物というか、開祖が書いた理論書や随筆、技法とは直接関係ないが護身のために気をつけなければいけない迷信じみたマニュアルなど、写本をもらい、それが最終修了証を兼ねることもある。
『五輪書』みたいなのは、本当はこの段階なんですが、現代に生きる我々は、これが出版されちゃってて、誰でも読めるんだから、恐れ多いことです。

 

 極秘伝

さらに、まだ何か隠してあることがあり、必殺技の中でも特にこの1本だけは秘密というような、開祖以来の直系本流の宗家だけが唯授一人(生涯1人にしか伝えてはいけない)をやってきたような、秘中の秘を習う。

その伝書があるなら 、たぶん開祖直筆の現物をもらうことになります。ついでに、開祖が使った武器とか服とか、なんなら道場の土地建物ももらう。師の娘さんももらうかもしれない。

じつは、開祖はあの有名な剣豪じゃなくて、それにあやかった無名のニセモノでしたなんて話が、あるんだったら、たぶんこの段階で聞かされる。

これが次期宗家になる。
しかし有名な達人の子孫が発祥地で世襲してるような超名門団体以外は、華道や茶道のように中央集権の家元ではないので、これがなくても別の地域へ行けば一流一派の宗家になるのが普通です。

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送