まず、カネ

航空機は、生産額にしめる研究開発費の割合が、20%を超えます(自動車だと3%以下、船なら1%以下でやっている)。
新型を開発するのに、乗用車だと数百億円でやれるのに対して、飛行機は、中型の民間機でも数千億円かかる。
自動車は一度設計したら100万台くらい作るし、船の値段は設計よりも大量の鉄鋼なんで。

自衛隊の研究開発費の内訳の推移も、水上水中兵器は半減、電子機器やや減、火器と車両で増加、航空関係は大幅増!というような傾向です。

年度あたりの金額で言うと、古い資料ですが昭和58年度の自衛隊の研究開発で10億円を超えるものは、地対艦誘導弾開発75億、戦車開発56億、中対戦車誘導弾開発34億、高射機関砲開発15億、水中固定聴音装置開発14億、警戒管制レーダー開発11億、そしてダントツなのが中等練習機開発280億、しかもこれは機体だけの話で、そのエンジンは別に44億かけて開発している。

たかが中等練習機でも、ジェット機を新しく作るというのはこの有様。
しかも、これ川崎T-4のことです。同クラスの傑作の定番が諸外国にあるから、いくらでも安く買い叩いて輸入できるものを、国内航空産業のためだけに無理に国産したから、ケチつけられないよう、ランニングコストや単価はもちろん、開発費の段階から、なんとしても徹底的にムダを省いて激安で作ったという飛行機でさえ、他の分野に比べたらケタが違う。

これじゃあ、経費削減を努力していないかのように誤解されてしまう。それこそ、ほかでもない日本共産党さんに、軍事より生活が大事とかなんとか叱られてしまいます。

 とにかく、カネ

音速を突破すると、自分が出した衝撃波で自分の翼がちぎれたり、そもそも空気が邪魔するようになって、翼があんまり翼の役目をしなくなる。
もしかして、光速を超えることができないのと同様に、目には見えない
「音の壁」というものがあって、飛行機が音速以上で飛ぶのは無理なんじゃないかと本気で言われてました。

それでも音速飛行は実現した。
宇宙船の大気圏突入ほどではないにしても(あれはマッハ20くらい)、マッハ3くらいになると機体が熱で膨張して、変型したり接合が取れたりで、空中分解してしまう。というかアルミが溶けてしまう。
エンジンのほうはもっと出力を上げようと思えば上げられるのだが、機体がもたない。
これは
「熱の壁」と呼ばれました。

そして、予算がない。飛行機をチタン製にしてまでマッハ3なんて必要があるのか、偵察なら衛星でやればいいじゃない、という話になった。「金の壁」

これを航空機の三大障壁などと言ってます。

 お偉方に説明と説得(カネのことで)

元手を回収しなければならないのも大変ですが、その前に、まず、その元手をどこから持って来るのか、です。

現場で実際に業務にあたっている将兵が、こういう装備が絶対必要だ、仕事にならなくて困っている、今後ますます必要になる、と訴えても、軍務局(自衛隊で言えば内局)が、はいダメ、贅沢すぎ、我慢しなさい、と予算をくれないことが多い。あの米軍でさえ、そうなんです。
大企業も、子どもさんのおこづかいも、お金っていうのはみんなそうですけどね。

プロレス団体と同じで、航空機の世界も、金がなくて実現しないということがものすごく多い。

 見本

音速以上、固定翼機で垂直離着陸、ステルスとかも、ほんのちょっと前まではみんな絵空事でした。
飛行機自体も最初はそうだった。

まだ存在していないものはイメージがわかないから、概念実証機というのを作って、実現可能であることをプレゼンします。
製品の試作ではありません。まだそこまでは具体的に固まっていないし、固めないほうがあとあと発展する。
叩き台にもならない漠然とした見本です。

概念実証は、「金を出してくれよ」と、ほぼ同義です。

 

戦後日本の国産機開発の御涙頂戴ストーリーとして有名なYS-11の時は、設計の基本方針すら決まっていないうちから、莫大な金をかけて、実物大模型を作りました。
なんでそんな無意味なムダをしたかというと、頭の悪い政治家たちに予算を出させるため。
電飾を派手にチカチカさせ、椅子はファーストクラス並の間隔にして西陣織で張り、交響曲『田園』を流すなど、豪華に勇壮に演出してやったところ、通産大臣を始め一同は、スゴイ!スゴイ!と感激し(もともと頭が悪い連中だからミーハーなので、すぅ〜ぐ感激する)、掌を返したように協力的になったそうです。

つまり、想像力がなく、大局も見えてないので、目の前に具体的なものを見せてやらないとイメージできないわけです。

想像力の不足は、危機管理の最大の欠陥です。
平和ボケの奴らを守ってやるために、なおさら、軍事が必要になるという悪循環。

 ノウハウの蓄積

実現可能だということが証明されても、実用化できるかどうかは話が別です。
軍隊の場合、採算はそれほど考えていませんが、それにしても費用対効果は考えます。
データを取らなきゃいけません。
実験機。

どういう飛び方をするとどういう問題が発生して、それを防ぐにはどうするのが有効か、ありとあらゆることを、少しずつ素材や形状や条件を変えてみて、実験しなければならない。

ちかごろはコンピュータでシミュレイションするので、多くのことが予想つくようにもなったんですが、実物でやってみると、理論上ではありえないことが現実に起きて、別の理論が見つかったりするわけです。
そこらへんがまた、研究と開発の境界があんまりないというところなんですが。

航空工学の産みの親の一人ケイリー卿は、理屈の計算ではなく実際に実験装置を作って揚力を計測するということをやった。
ライト兄弟が成功したのも、実地で実験をものすごくやったからです。ちゃんと計算して設計したのに飛べなかったので、スミートン係数など、従来の理論のほうが間違っていたことがわかった。

これは現在でも同じです。強度を紙上の計算で完璧に出せる部分と、計算できなくもないが正確にはわかりにくい部分というのがあって、後者は作ってみるしかないということです。壊れるとすれば、その部分だから。

 実用化の断念

この段階で話が終わるとすれば、たいてい、コストがかかりすぎる、性能が安定しない、ほかのもので間に合う、開発に時間がかかっている間に時代が変わって必要なくなってしまった、大人の理由(政治的な)、というようなことです。

実用化しなかったとしても、実験機はその後、技術試験機などと呼ばれて、あいかわらずデータ取りに使われたりします。
最終的には博物館に飾ることもあります。

 実験用の機体

この段階では、生産のためにやることではないから、市販の部品を寄せ集めて作ったりもします。

新しい部品の性能を見るために、実際に飛ばしてみようとかいう場合は、これはテストベッドというやつで、今ある飛行機につければいい。
任務についていない予備の飛行機、旧式化した飛行機などを、少し改造したり。
実験が終われば原状回復することもあります。

まったく新しい機体を作るにしても、なるべく、すでに量産している機体から部品を寄せ集めてきて流用します。
一からハンドメイドで作るということも、ないこともないですが、一点物だから高くつく。

あるいは、実物の3分の2とか小さなサイズで作ってみたり、無人で動かしてみたり。

 

 →つづき 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送