プロペラ

おおむね、回転が遅いほど直径を大きくします。

先端ほど高速で風を切るので、部分によって厚みや反りを変えてあります。だから、最初はスプルース、マホガニー、クルミなどの木製、または、寄せ木や圧縮(石灰酸樹脂と熱で圧着)でした。削り出し。
のちに機銃の問題などもあり、外側を真鍮などで補強するようになる。
そして全金属製。一時期、鋼板を溶接した中空のもありましたが、修理しにくいのですたれた。普通はジュラルミンです。
最近のは炭素繊維の複合素材などで作ってます。

本書が発行された時代は、金属製です。
ヤマハ(当時は日本楽器製造)も、金属ペラを作ってました。
ソ連では30年代初頭、I-5の頃から金属ペラになりました。

 カフス

プロペラブレードの根元につける整流カバー。
この部分は回転も遅いし、太いし、機体に近くて、あんまり空気をひっかく役に立っていない。
このカバーをつけると、ブレード幅が増えて、推進力が増えます(特に低速時)。
これはターボプロップによく使われるもので、この時代には無かったんじゃないかと思いますが、どっちみち、
本書の図はそこまでこまかく描いてません。

 スピンナー

スピナ、スピナー、スピンナ、キャップなどともいう。プロペラの回転の中心につける、とんがり帽子の覆いです。
これをつけるのは空気抵抗を減らすため、つけないのは、かえって摩擦抵抗の増大や冷却効率の低下になる、第一カッコワルイ、と考えていたりとかです。
現場では取り外している場合もよくある。
ドイツがやたらめったら巨大なもの(しかも、謎のぐるぐる模様の)を、よく使ってました。
ソ連機にもだいたいあります。

 カウリング、カウル、エンジンナセル

フェアリング(空気の流れを調整する覆い)のうち、エンジンに関するもの。
大昔はシリンダーを全部むき出しにして飛んでたこともありましたが、空気の流れも乱れるし雨もかかるので、普通はエンジンにはカバーがつきます。効率良く空気が通過して、空気抵抗が半分以下になる。

最初の頃は、全体を小さくおおって、シリンダーの出っ張りを個別におおうヘルメット型(通称イボ付)というのがありました。このほうが直径を小さくできる。
ほかに、
タウネンド型といって、円環翼のような浮かせた大きな筒で、空力的に全体をおおう形式もありました。
のちに、全体をなめらかに平らにおおうようになる。NACA(NASAの前身)が開発した
NACAカウリングというタイプが主流になります。空力的に考えて段差をなくしてある。
さらに進化すると、前をあまり露出しない
ワッタートンネル型というタイプになる。

ナセルは、双発機の翼や、飛行艇の上など、胴体から離れた所にエンジンをつけている場合、エンジンでふくらんでる部分、または、そのエンジンの覆いです。
日本では短胴と言ってましたが、うまい名前をつけたもんです。

主翼にエンジンを付ける場合、プロペラでもジェットでも、エンジンを前に突き出したような位置にします。進行方向前方に重しがあったほうが、主翼がめくられず、振動にもなりにくい。

 カウルフラップ

カウルの後部を開け閉めする装置。手動です。
始動や離陸など、機体スピードが遅いわりに出力を上げている時は、熱いので、大きく開けて、空気の通りをよくして、エンジンを冷やしてやる。
スピードが乗っちゃってからは、出力はほどほどでいいので、閉め気味にして、空気抵抗を減らしてやれば、ますます速く飛べる。急降下ではかなり閉める。
日本の陸軍では九七式戦から取り入れました。

じつはエンジンほど熱い物にも、過冷却ということがあって、冷えすぎて墜落した例もあります。特に高高度は液冷で飛ぶから、冷えすぎる要素が多い。

設計というのは、ある要因が最大時でも最小時でもそれほど致命的には問題ないように、中間あたりに、まあまあの落し所を決めて設定しちゃうんですが、それが、可変で調節ということができると、どっちつかずのまあまあではなく、つねに最適な状態にできるわけです。
しかし構造が複雑になるから、それだけ設計も生産も整備も操縦も手間がかかるし、壊れやすくなっちゃうけれども、性能は引き出せる。

 カウリングシャッター

ソ連では空冷のシリンダーをむき出しにしとくと氷って始動できなくなるので、駐機中はカウリング前面をシャッターで閉めることがあります。
カメラのシャッターのようなものではなく、意外に厚みがあったり穴の幅が狭く、
ほとんど穴ぼこです。ワッタートンネル型カウルに似ている。
さらに、発進ギリギリまで、カウリング全体を紅茶ポットのようにキルティングの布カバーでおおっていることもあります。

 固定ピッチ、可変ピッチ、定速ペラ

プロペラのピッチというのは、プロペラが1回転して進む距離のことです。1かきで、どんだけ泳げるかという話。どのくらい羽根を傾けておくかで決まる。

固定ピッチプロペラは、羽根の傾きが変わらないやつ。
プロペラはエンジンにつながっているので、エンジンの回転を上げればプロペラもたくさん回る。
エンジン側で調節して飛ぶわけです。

可変ピッチプロペラは、選択ピッチプロペラともいう。羽根の傾きを飛行中に変えられる。
傾きを動かす動力は各種ありますが、この時代はほとんど油圧です。今は電動も少なくないですが。
離陸の時なんかはプロペラを寝かせ、少しずつでいいから強くひっかき、高速で飛んでる時は45度くらいに立て気味にして、弱くていいからたくさんかいている。
プロペラ側で調節して飛ぶわけです。

後者のほうが、はるかに効率がいい。
自転車のギアチェンジと同じです。上り坂ではロー、速度が乗ってる時は軽いギアにしてやれば、ペダルをこいでる人は同じペースで回してるから疲れにくい。
ところが飛行機の場合、歯車なんて重いものはなるべく積みたくないんで、プロペラ側でやるわけです。

 

これはハミルトンスタンダードという会社がほぼ一人勝ちしてた分野で、どこの国でも、敵も味方も民間も、みんなハミルトン式でした。

今では船のスクリューにも、この機能あります。
羽根の角度を水平にしてニュートラル、羽根を傾ければ前進後進になる。

最初は2段階切り替えくらいだったのが、さらに発展すると、定速プロペラといって、もうエンジン回転は一定に保っておいて、プロペラの角度を自動的にこまかく変えられるようになる。

ガバナー(調速器)という機械でやってます。
L字型の錘りの遠心力で油圧弁を開閉させることを、エンジン回転と連動させてあって、設定した回転数を超えると回しにくくなるように、回転が下がると回しやすくなるように、羽根の角度を変えて空気抵抗を増減してやる。

最近のほとんどの多発機は、着陸時にはプロペラの反りを逆向きで回して(いわばバックギアに入れて)、ブレーキの足しにしてます。

また、双発以上で1発こわれた時に、そのままで飛んでいると、動かないプロペラが風を受けて猛烈な空気抵抗になったり、プロペラが風車になって壊れたエンジンを回し続けるという、いわばエンジンブレーキになってしまい、共鳴がおきて主翼や他のエンジンまで壊れる。
そこで、空気を受け止めにくい角度にする。フェザリングといいます。この機能を付けるためには、作動の油圧を高くしなければなりませんが。

あるいは、エンジンに手が届くんだったら、プロペラが回らないようにしておいて、機上整備員が飛行中に応急修理をすませ、再始動する時は風車になってくれたほうがいい場合もある。
それほど高高度ではなく、ある程度の速度が出ていれば、ジェットエンジンでも再始動できます。

本書の発行時期は、日本では、陸軍はまだ固定、海軍は定速ペラを導入したあたりです。
ソ連では37年までに可変ピッチはできてます。I-15は初期型では固定だったのが、のちに可変にした。

 羽根

プロペラブレードの枚数は、エンジンが高出力になればなるほど増えます。
馬力が増えても、回転数や直径を増やすと先端が音速になるから、1回にひっかく空気の量を増やすしかないということです。
だいたい千馬力前後からは3翅、2千馬力を超えると4翅になります。

第二次世界大戦後期には、どの国でも枚数を増やして、6翅もよくありました。
そのあと8翅くらいになり、さらに、二重反転、ターボプロップ、ターボファン、というやり方になっていくんですが。
じつは1翅というのもありました(反対側はおもり)。6翅以上はだいたい二重反転です。

本書の時代は2翅から3翅への過渡期くらい、まれに4翅もあります(サンダーボルトが掲載されている)。
ソ連は技術が遅れてたようです。

本書のソ連機の三面図では、プロペラの描写が、側面図にあって正面図になく、ほとんどが2翅のような描き方です。
3翅なら、横から見て上下同じ長さに描かないはず。
描いた奴がいいかげんなのかというと、米軍、英軍のページでは正面図にプロペラを描いたものもあり、3翅は3翅として描いている。

父が使っていた航空学校の初等段階の教科書を見ると、この立体を上から見た図がこうだった場合に横から見た図を想像して描いてみろとか、そういう学習があって、少なくとも陸軍では、機関士でも通信士でも飛行機に乗る人は必ずそういうことを教育されてます。

実機の写真(当時のもの)を見ると、I-15系、I-16系、I-17系、DI-6、R-5系、ARK-3などは2翅のようです。たぶんR-10も。
MBR-2は写真によって2翅だったり、止まってる写真でも4翅だったり、ようわからぬ。

 牽引式、推進式、前後串型

プロペラは、普通はエンジンの前につけます。
引っ張って進むので、牽引式とかプル型とかトラクター型などという。

プロペラをエンジンの後ろにつけるのが推進式です。
押して進むので、プッシュ型とかプッシャー型とかいう。もちろんプロペラの反りは逆です。
じつはそれほど珍しいことではなく、飛行機が発明されたばかりの頃にはむしろ主流でした。船のスクリューのほうが、飛行機よりも先に発明されていたので、そのイメージもあったらしくて。
前方にプロペラがないので、大口径の銃砲を集中的に設置することができる。
視界も良好。現代でも、民間の小型機(カナード機など)には、推進式が結構あります。
自動車で言えばRRなので、鼻先が軽くて安定が悪いが、機敏な運動をするには都合がいいとも言える。
いずれジェット機へ発展させる余地もある。
しかし総合的に見れば効率が悪い。特に、最後尾にプロペラをつけると、機体で乱され終わった空気をひっかくことになるし、着陸時にオカマならぬ地面を掘る恐れがある。
一番の欠点は、後方視界が悪くて軍用機としては致命的だということと、脱出したパイロットが挽肉になってしまうことです。

うちの父は、「震電」が大嫌いらしくて。これが飛行機じゃなかったとしても、造形的に悪趣味、そそくさと逃げてごまかしている幼稚なラインであり、こういうカタチをカッコイイと思っちゃうようではデザイナーとして失格なんだとか…。

牽引式と推進式の組み合わせもあります。
エンジンが複数で、
前と後ろでプロペラを回すやり方。プッシュプル型などという。回転は前後逆向きで相殺してある。
ドイツが、飛行機の最先端と最後尾にプロペラをつけたことがありましたが、こういう例は少ない。
たいていは、2つのエンジンをひとまとめにして、高翼の上にかつぎ上げる。「エンジンが串型」というのはコレです。だいたい液冷です。
飛行艇でよくやります。エンジンを重心に乗せたり、主翼の負担を減らしたり、エンジンが波をかぶらなくてすむからです。
マンマユート団がドルニエみたいなのを使ってて1発こわされてましたが、ああいうやつです。

 

 →つづき 

 

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