「風(を入れる)
もともとは花札のカットのこと。
外の試合や試験には師はつきそわないもので、教えることはすべて教えてあるし、できている、どう間違っても絶対にうまくいくから俺は行かないぞと、つきはなすことになっている。若手の指導員は会場の係員だったりするが、中立的な立場なので、あまり身内の世話をしない。
これらとは別に、普段それほど親しくない先輩が、今日はヒマだからとか近くを通ったからなどと言って、ふらっと顔を出し、ちょっとしたアドバイスをして、結果を見届けずにさっと帰っていくことになっている。これが、風のように現れて去っていくと言われ、非常にかっこいい愛情の示し方、理想的な「先輩風の吹かし方」などとされており、これを受けた場合、一生の恩義と感謝して、自分の後輩にもおこなう。

「硬くなる」
怒ること。相撲用語。この表現は鋭い見識である。

「ガチンコ」
八百長でないことを意味する角界用語であり、この用法のまま一般に広まっている。空手界では、わかりやすい攻撃(ゴツンと単発してはゴツンと受けてそれっきり等)をお互いにえんえん繰り返していて予定調和の馴れ合いのようなくだらない組手をいう。

「ガッチャンコ流」「ガッチャマン」
冴えた技や連続技が出ず、大振りな相打ちをしてはクリンチで一息つき、間合を切ってはまた激しくぶつかるという繰り返し。
レベルの低い試合の典型であるが、普段は練習としてわざとやることも多い。

「ガッツ伝説」
語り継がれている失敗例。
指導のときにたとえとして使われる。勝った選手が次の選手とハイタッチしたために勝ちを取り消されたというような話。

「カド番」
5回勝負を2勝2敗で迎えた5戦目など、これで勝負が決まるという試合。囲碁将棋の用語。現在では相撲の角番大関をさすのが一般的。
転じて、出場者数が奇数で、1回戦のない人をさす。
指導者側としては、入賞経験のない選手に自信をつけさせるために、1勝だけで3位というチャンスを与えたつもりなのに、こういう時に限ってしばしば負けてしまい、これをカド番落ちと言う。
しかし、体も暖まり勝ちの勢いに乗った人が、長く待ってて迷いが出た人を駆逐することは多い。

「カニメ」
試合開始と同時に横へ半歩移動するクセ、またそういう人。
気持ちで負けていることが多い。

「壁にぶつかったら乗り越えずに迂回せよ」
月亭八方師匠の持論。正中線を取って堂々と行くのが武術の基本ではあるが、たとえばスーパーセーフ面は正面から打っても効かないので、フックやアッパーのほうが試合には勝てる。

「髪の毛1本調節」
礼法は相手と合わせるのだが、実際には、完全に合わせてはならない。試合前は礼も歩き出すのも立つのも構えるのもほんの一瞬だけ相手より早くして、試合後にはほんの一瞬遅く動作する。これが、見てわかる程度に時間差がつくと礼にならないので、髪の毛1本分などと言う。

「寛永御前試合」「魔界転生」
自称、武芸者の生まれ変わり同士が、試合で当たること。
前世は何だったと断言するのは思春期によくあることで、三厳先生と土方副長の生まれ変わりが、どちらも中学生女子でからっきしヘタクソだったりとか、これはこれでたしかに面白いので、わざと周囲が悪ノリして大言壮語を吐かせ、笑い者にする。
タモリさんの前世はカッパだとテレビで公言した占い師が、じゃあお前の前世はアントニオ猪木だ、などと、占い師たちの間で批判され、あれは番組を盛り上げるためのウソでしたと白状したことがあった。
輪廻はあるかもしれないが、産業革命以降は人口が爆発的に増えているから、前世は足りないはずである。
中世欧州の騎士だの姫だのが、日本にばっかり何万人もいるわけがないし、後進国であれだけ乳幼児が死んでいるのに、前世が難民だったという話を聞いたためしがない。
俺が知る限り唯一信用できそうな前世占いは、本人と親の誕生日から計算で出している。

「胸含抜背」
本来の意味は腹部への攻撃を処理する極意だが、へっぴり腰で技が手先だけになることを言う場合がある。

「がんばってしまった」
顔見知り程度でほとんど口をきいたこともないが、ちょっと好みだなあという程度には意識している異性が、出番の直前に、がんばってください、と声をかけてくれたものだから、その言葉が頭の中でリピートしてしまい、そっちに気をとられたり、いい所を見せようとしすぎたりして、つまらないミスをすること。

「黄色」「黄ばむ」「すくわれる」
寝技で、まだ技は入っていないが、すでに敗北が決定的な状態。
特に、あおむけにぺったりと寝ることを言う。

「気張りすぎてクソもらすなよ」
たいして実力もない人から威勢よく挑発された場合の、典型的な言い返し方のひとつ。映画『ビーバップ・ハイスクール』などにも出てきた。
渡哲也さんが人工肛門になって以来、渡さんの御健勝を祈るため、暴力団や暴走族の世界では、この言い方は自粛気味になっているという。
武道の場では、りきんでいる人への警告に使う人がある。

「寄付」
審査に何度も落ちること。
連盟のビルは私が建てた、新幹線は私が動かしている、などと言う。

「極出」「残身」
相撲で差手を固定して押し出すような勝ち方を極出(きめだし)という。
転じて、相手が場外をとられた時、場外の相手に対してしばらく構えを取ること。
こちらが優勢だったから、相手は下がるしかなくて出たのだ、という印象を与えて、あとで判定を有利にするための、審判に対する演技。
空手ではこれをザンシンと言うが、残心ではなく残身と書いており、感じがよく出ている。

「きめる・かける」
攻撃のことだが、角界では「〜を極(き)める、極め込む」、ヤクザ用語では「〜をかける」という言い方が多い。

「弓道やってるから」
遠征の電車やバスの窓際の席、打ち上げの居酒屋の上座などを、譲ってくれ、の意。
有名な弓道選手(剣道の宮崎さん、柔道の山下さんくらいに匹敵する人)が、新幹線の座席が通路側であることに腹を立て、どうしても窓側がいい、なぜなら自分は弓道やっているから、誰か代わってくれ、と、大騒ぎした故事による。
理由になってないじゃんと思うが、流れる景色を見て、目を鍛えたいということ?

 

 

「今日はあんたが勝ったことにしてあげる」
負け惜しみの言い方。関西の女性選手がよく使う。
喧嘩で負けている側が「今日はこのくらいにしといたろか」と言う吉本ギャグが由来。
また、京大の審判がヘボで、誤審を訂正も謝罪もしなかったばかりか、「今の面はあることにしますから試合を続けてください」と言ったのが由来だともいう。

「切れてなーい」
現代剣道で、刃筋が立っていないこと。
小力さんではなく、横滑りしても安全なT字カミソリのCMが語源。

「キレる」
学生さんが、進学したとたんに弱くなること。
今までは仲間内で一番強かったのが、中、高、大と進むごとに、部活に入ったら自分が一番下手だったという経験をすることがあるが、それでヘコんで、上達が急に止まってしまう。
ゴムやゼンマイや気力が切れる、尽きるという意味。
ヤケをおこして開き直ることとは違う(そうしてくれれば、まだ見込みがある)。

「弓道三分の一段」
弓道の段位は、他の武道の段位の3分の1の価値しかないという説。「剣道三倍段」に対する言葉だが、弓道家が自戒を込めて言う謙虚な教訓なのだという。
弓道を始めたばかりの者が必ず言う自慢に、「弓道が他の武道と違うところは礼を重んじるところ」というのがあるが、それにしては、弓道選手だけがことさら礼儀正しいという話は聞かない。
礼と不可分なのは、たいていの武術がみんなそうである。ましてや「オレたちのほうが礼が高級だァ」などとは、礼がわかっている者の発言ではない。
武道の中で最も礼を重んじると称する武道をやっている者と、普通の武道をやっている者が、礼儀のしつけが同等であった場合、修行年数も同じならば、弓道の教育システムは劣っていることになる。

「気をつけなサーイ、ワタシは黒帯デース」
欧米人なまりで言う。初段に受かったことを報告する言い方。
アナウンサーの生島ヒロシさんの武勇伝が語源。
防犯とか護身術の世界では、武道の段位に批判的であることが多く、「黒帯です」と説明してから喧嘩をしたり、袋だたきにされながら「俺は黒帯だァ〜」と負け惜しみを叫ぶのは、何の効力もないしみっともないという。
ところが、生島さんはアメリカかどこかで外人の空手初心者にからまれたとき、アイムアブラックベルト、ビーケアフォ、と言い、それで相手は恐れ入って立ち去ったという。戦わずして悪をくじいたと言える。
また、近年では一人暮らしの女性の防犯として、柔道をやってなくてもベランダに柔道着を干すことを推奨する人もいる。

「グーチョキパー」
勝負は時の運、というような意味。
右フックとレバー、ハイキックとタックル、面と小手、背負と内股など、一方の動作がもう一方にとって都合よかった状態。
負けた人へのなぐさめや、勝った人が謙遜で言う。

「曲者」「納豆型」
強い気迫があるでもなく、技がうまいわけでもないが、しぶとくて負けにくい選手。
学生段階では、このほうが勝てる。美智子皇后のテニスは、ちっとも攻めないが根気よく拾うので、だんだん敵が不安になってきて勝手に自滅してしまう、気品のテニスなどと評されていた。

「内蔵助」
開会式の最後に、太鼓を打つ係。中堅どころの指導者がやる。希望者が多い。
周囲に、いざ、と言われて席を立ち、それではおのおの方、と瀬川瑛子さんのようなしゃべり方で言うのだが、これは片岡千恵蔵御大の演技をマネする喜久扇師匠のマネ。

「剣道三倍段」
剣道の段位は、ほかの武道の段位の3倍の価値がある、という意味。
剣道をやると、機会のとらえ方や、動じないメンタルコントロールが身に付くため、剣道団体の新人勧誘において、70年代ごろによく言われていたが、最近あまり聞かなくなった。
そもそも、自分たちのほうが偉い武術だなどとほざいているようでは、まだ剣道のなんたるかがわかっていない段階である。

「現場を呑む」
早めに会場に到着して、場の雰囲気に慣れておくこと。
ただし、あんまり早くから会場に入ると、緊張感がなさすぎて緩みすぎたり、考えすぎて迷いが出たりする。
列車事故や交通渋滞、現場での手伝いや自分の準備などにもよるが、だいたい2時間前というのがベストとされている。

「撃沈」
艦艇や船舶が攻撃を受けて沈没すること。海軍用語。
武術では、立つ瀬がないとか、浮かばれないというニュアンスで、試合よりも審査でよく言う。

「ゴキケンだね」
若さゆえにがんばっちゃっていて、でも一応やりきっていて、いい気になっているね、今はまあそれでいいけど、あとで恥ずかしくなるだろうね、の意。
もともとジャズにおいて、自分の音楽性や好みとは矛盾したものを、社交辞令で軽く誉め、責任も負わない時の言い方。

「コテコテ」「コテっちゃん」
剣道で小手を取った瞬間、間合を切って逃げ、コテコテコテ〜い!と奇声を上げて審判にアピールすること。
それをやらなければ普通に1本だったのに、上がった旗も取り消されてしまう。
または、出小手だけで勝ち進む人。表を見れば一目瞭然なので、だんだん対策をとられる。

 

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