盃 「盃」と書いた場合は、勲章のたぐいではなく、宮内省や陸軍省などから出る記念品です。 　天盃 皇室にお祝い事があったとき関係者に配ったり、華族の成人祝いに配っていたもの。 古今東西どこの文化でも、酒を酌み交わすことは男子の親睦につきもので、特に「親子さかづき」といって、容器を共用して飲むっていうのは、親しさの象徴なんですね。それを、目上の方がやってくださる。盃をとらす近こう寄れ、お流れ頂戴します、ということが、名誉として古くからあったわけです。 その最たるものが陛下から頂くもので、これは恐れ多すぎて、別の容器に移しかえて飲むしきたりでした。 これが、飲むんじゃなくて、盃（品物自体）を記念にくださる風習に変わっていったらしい。戦国時代にはもう、そうしてます。 そもそも昭和天皇は酒も煙草もおやりにならない方で、神道儀式としてちょっと日本酒に口をつけるだけだったそうです。 　養老盃 これも即位など皇室に祝い事があったときに配ったらしい。組になってる木杯だそうですが、見たことがない。長寿を祝って高齢者に配ったんでしょうか。 　振武盃 旧日本軍で大きな演習のあとに飲み会になり、酒も肴もくださるが、盃は記念として持ち帰りになっていたもの。 なんだか非公式なものもあったようです。よく見かけるのは朱塗りに金で部隊章が入った木盃。 父のやつが出てこないので、親戚のやつでも。レールに斧を斜交いにしたマーク、鉄道連隊です。裏には曹長の階級章。 こんな誰でももらえるような盃はどうでもよかったらしくて、父が譲り受けたそうです。 ほかに、外は赤だが内側は金で、中央に金をぬいて陸軍の星を描いたものがあるという。 　軍用ぐい呑み？ 陶器の、寸胴タイプのオチョコで、側面に旧陸軍の星マークが金で入ったやつ。骨董屋でよく見かけます。 これはもしかすると拝領するものじゃなくて、軍隊の備品だったりして、出陣の水盃か、神棚のお供えに使ったんじゃないかと思うんですが、ようわからぬ。 所有してる友人に電話で聞いたら、底に、九谷と書いてあるという。		兵隊盃？ 兵役が満期終了して除隊や帰休する時、または、在郷軍人会の発足などの、記念品。 白い盃（おそらく磁器）に、金文字です。 菊紋と桐紋が金色で線描され（ベタがある場合は菊花は金、桐葉は緑）、余白に金字で兵科や部隊名が書かれているもの。 旭日旗の上で桜が咲いている絵を描いたもの。 中央に桐紋が線描され、上に「帰休記念」、下に連隊名が入るもの。 中央に「發會式」、周囲に在郷軍人會云々と書かれたもの。 …などがありました。 　兵隊徳利？ 兵隊盃と同様の記念品。 おそらく陶器で、全体的にゴツゴツしており、肩のあたりに陸軍の星が浮き彫り、正面に国旗など画かれている。 　 なんちゃって金杯 戦後になって各種団体が、勝手に出したもの。 金融機関なんかが出すのは、ただの景品です。得意客なら誰でももらえる。干支が入ってて、毎年配ったりする。 県や市区町村が高齢者に配ったものは、政府から出る杯の格下なやつというくらいの位置付けに解釈されている。鶴亀なんかが浮き彫りで入っていたりします。 軍人会が何周年記念とかで会員だけに配ったものは、まるで部隊が今でも続いちゃってるかのような、しかも場所や基地や名前が、今も自衛隊に連続しちゃってて、実在し続けているフシがある。 たいてい２４金メッキ。こんなレプリカの分野のほうが、かえって金杯が復活しちゃってるわけだ。くるむ布と、プラスチックの黒い台座と共に、桐箱に入ってます。 　 手拭 てぬぐいです。 現代剣道でも、面下にする日本手拭をオーダーメイドして、組織の周年記念や、大会の参加賞として配ったり、昇段したらお世話になった方々に配ったりするんですけど、こういうことは旧軍の各部隊でもやっていたし、戦後も各軍人会がやってます。戦後のものはタオル地だったりする。 これは伯父の部隊。弾薬車ともども牽引車で引っぱってますが、この時代には最新鋭なことで、機械化されてる、機動部隊ということなんです。人間も車両移動だったという。 「軽き身爾重き務免越恙なく果して帰留今日楚嬉しき（軽輩の身には重い務め（重砲だけに、重い）を、つつがなく果たして帰る今日の日こそ、うれしいことであるよ）」、この口ぶりでは除隊記念ではないかと思うんですが。左に桜の形の欄があって、持ち主の名前がある。仲間同士で交換するものなんだそうです。「斎藤」「田中」、この御子孫が今、お幸せだといいなあ。 だから、ものすごい枚数があったんですが、あんまり思い入れがないようで、伯父は父に譲り、父は汗拭きや風呂に使いまくり、切り刻まれて裏地になったり雑巾になったりしていたのを、俺が激怒したら、まだいくらでも新品あるわと２枚もらった。 ※後日談。これ、復刻版が市販されてます。ミリタリーショップで３８０円。 　 →もどる