花押(かおう)の作り方

毛筆で署名したあと、その下にマークが書いてありますよね。あれが花押です。文書偽造を防ぐために署名が複雑になったものだから、芸能人や西洋のサインに近い。今でも武道や政治の世界では公文書に使われます。いやしくも日本男児に生まれて15歳くらいになったら、御自分の花押を持ってください。

 

←もどる 

新陰流兵法家伝書活人剣より柳生宗冬と柳生宗矩、鏡新明智流免許状より桃井春蔵、各先生の署名と花押。

 

 花押の種類

花押は中国で生まれ、時代とともにいろいろな種類があって、好きな言葉を書いたり、動物の絵を描いたりしたものもありました。
日本では江戸時代までには形式が整い、以後、現在に至るまで、ここで御紹介する徳川家スタイルの明朝体が、一応正式ということになってます。

何か前衛的な芸術をやっている人なら、形式を無視した花押でもいいとは思いますが、そんなデタラメなものは花押とは言えないよと後世まで笑われ続ける覚悟が要ります。
やはり正統派がオススメ。
まして武術やってるんだったら、ぜひ武家風に作ってください。おさえなければいけないポイントは、それほど多くない。
武術やってなくても、このやり方で作っておけば、とりあえずどこへ出しても恥はかきません。

 系統

しかし、武道や宗教の流派、家系によっては、必ず「慈」という文字を使うとか、ある一定のパターンを代々受け継ぐことがあるので、作る前に師や御両親に聞いてみてください。
御先祖が使ってた花押があれば、それを踏襲したい。

仏壇の引き出しや和室のタンスの中に、御先祖が毛筆で書いたものが、ひとつくらいありそうなもんです。
ちょっと気のきいた人なら、昭和初期くらいでも花押を使ってることはよくあります。
うちの伯父なんか、親族会議の決定事項などは、いつも花押を入れて送りつけてきます。

 花押にする文字

まず、もとになる文字を自分の名前の中から選びます。
この話だけで、ホームページがひとつできてしまう。

大ざっぱに言えば陰陽五行と言霊で、文字の意味と画数と発音、生まれた年の十二支と十干の性質を検討するわけです。
花押はサンスクリット語(梵字)の影響をうけており、そっちの知識も要る。

これは「墓所」で御紹介した字(あざな)や号(なになに斎)を決める段階でやるんです。
陰陽陰陰とか、水土金木とかっていう、組み合わせを。
陽が上にありすぎるとか、火の要素ばっかりだから風の要素もほしいとか。
さらに名前の由来や意味、職業や人柄まで検討する人もいます。

専門書を読むと、花押に使うと不幸になるという漢字も、あることはあります。
本によって少しずつ言うことが違う。
それは統計なのか宗教的理由なのかということだと思います。
「墓所」に少し書いておいたので参照してください。

もし全部の文字が花押には不適当だった場合、半切・逆半切というやり方でほかの字にしますが、基本的には自分の名前から取ります。

このへんのこまかいことは印鑑占いみたいなもので、縁起かつぎだから、気にしない人は適当でもオッケー。
気になる人は、易学系の占い師に相談してみてください。
よく閉店後の銀行の前に露店を出していたりします。
でも、俺は専門家につきっきりで監修させ、武術の極意や得意技まで組み込んだ完璧な花押を作ったのに、仕事も家庭も全然うまくいってないので、こんなの迷信です。

さしあたり重要なことは、あまり画数の少ない文字は花押に使いにくいということです。
武術家は、「一」とだけ書いた花押もよくあるんですが(万刀一刀に帰すとか思想上の理由)、これはカナしか書けない農民でもできることだし、偽造を防ぐ本来の目的をなさない。
下の名前がひらがなだけの人は、万葉仮名になおして作るのも手です。

 くずす

使う文字が決まったら、それを崩します。
崩すというかディフォルメする。
上の画像を見てください。

上下に1本ずつ横線があるようにします。
長さは同じか、下のほうが長め。これは天地をあらわしてます。
一説には、この線が右上がりだとどうとか、曲がっているとどうとか、いろいろあるんですが、それはたいしたことじゃない。

この横線2本を縦線がつなぐ「エ」の形にします。
この縦線は人をあらわすので、垂直にすべきですが、やや右に傾ける人が多いです。俺もそうしてます。

そして、縦線と下の横線が接するあたりに、左上に向けた点を1つ以上、必ずつけます。
これは魔よけの剣をあらわしているから、筆を整え、先を尖らせて鋭く書かなければいけません。
どうも専門家の話を聞くと、1つでは足りないみたいです。俺は2つにしました。真剣を使う人やフルコンの人は、2つ3つつけてください。こんなことで怪我が防げるなら安いもんだ。

その上か右に点か線がくるようにしますが、この部分は省略する人が多いです。

縦線の右上に点か線を配置します。この部分でデザインの大部分が決まる。

そして、最も大きく丸みのある太い線を右下につけます。
これは徳をあらわす部分なので、ゆったりと書きます。

 

画数や、空穴(閉じた輪になってる部分)の数は、生まれた年の干支で決まりますが、あんまり気にしなくていい。

複雑にすると偽造されにくくなります。
急ぎの時に困るのでは?と思うかもしれませんが、武士の世界では、そういう心配をするのはかっこ悪いということになってます。
現実的な問題としては、こまかいと、筆が太い場合やにじむ紙質だった場合に、線が重なってつぶれやすいということはあるかもしれない。

 書き順

書き順は梵字に準じた決まりごとがあるんですが、これも気にしなくていい。
書きやすく、偽造されにくい書き順ならいいんです。
毛筆だから、原則として上から下、左から右というのは当然です。

線の太さや長さ、線と線の間隔が、書くたびに違ってしまうようでは花押になりません。
たくさん書いて慣れるしかないですが、全体のバランスをコントロールしやすい書き順というのが、自然と見つかるはずです。

でも、ほかの人には内緒にしましょう。書いてるところもできるだけ見せない。他人が書く時も見ないようにします。

 秘密のしかけ

伊達政宗公が花押に針で小さな穴をあけていたのは有名だけど、自分だけの、わかりにくい法則を加えればなおいい。
あぶり出しとか、一か所だけ墨の種類を変えるとか、それも曜日ごとに変えるとか。

しかも(政宗公がそうだとは言いませんが)、見られてヤバい文書にだけは、その法則をわざと使わないでおけば、もし追求されても、俺が書いたんじゃない、誰かの偽造だ、と言い逃れられる。

武道やってるのに「一生懸命」、しかも指導員やってるのに「子供」、さらに禅もやってるのに「馬鹿」、バーでしか飲まないのに「バーテン」なんていう表記では、まさか、この人がこう書くわけはないと、偽造文書はだいたい察しはつくはずです。
ただ、頭では知ってるけど筆の勢いとか、パソコンだと変換ミスもあるから、一概には言えない。

 拝む

花押は7つの部分からなり、それぞれの点や線が5つの仏様の化身ということになっていて、正式には、花押が完成したら仏壇に飾って専用のお経をあげることになっています。
そこまでしなくてもいいけど、俺は書くたびに一礼してます。受取人に対する礼でもあるのですが。

自分の花押だから自分の勝手ということではなく、花押まで入れたからには、天地の法則に誓って、自分の信仰にかけて、この文書にやましいところはありませんという、少し姿勢を正したニュアンスがある。

花押が入った文書を(入ってなくてもだが)踏んだりまたいだりしてはいけない。他人が書いたものも丁寧に扱いましょう。

古い年賀ハガキを子どもさんが図工に使って、恩師の御芳名が切り刻まれて紙相撲の尻の部分になっちゃったなんてことは、武家では絶対にありえません!
主君から拝領した家紋入りの羽織とか、皇室の御写真とかは、御本人を相手にしてるのと全く同じように扱う。

現代でも、師や先輩のお古の袴を頂いたら御名前が刺繍されてたなんてことはよくありますが、背板ならともかく、尻に入ってるやつは、俺は飾っておくだけで、着たためしがありません。
先達をまたいだり、尻にしいて座るなんていう、そんなウスラボンヤリした感覚で、危険を察知できると思いますか?

 変更、追加

花押を作ったら、一生使うのが建前です。

昔は何度も変えたり、同時に複数使った人もいたけれど、それは死ぬような目にあって出世して、あだ討ちのために身分をかくし、名門の養子に入り、天皇から身分をもらい、という劇的な人生だったからで、今どきの日本人はひとつで十分。
あんまり変えると重みがなくて、信用されなくなる。

 字(あざな)とのバランス

上の画像を見てください。
苗字(松平とか)を書き、名(平八郎とか)または官職(越前守とか)を書いたら、そこで改行しちゃっていい。
そして、姓(藤原とか)と、字(あざな。信長とか)を、小〜さく書き、その下に大きめに花押を入れるわけです。

花押が小さすぎてつぶれると、みっともない。
いかにもゆったりと、のびのび書いてください。

字(あざな)と花押は、接触させる。
現代でも、印鑑を署名に少し重ねることはありますよね。

 

←もどる 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送