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注文書
武器屋に出す仕様の指示です。
その達人が、その時期、何を気にして何を気にしなかったか、どんなのが流行っていたかがわかる。
特に砲術で重要な資料になります。
武器の寸法や構造や材質は、伝書にも書いてあるんですが、それはいろいろ使ってみて最終的に決まった標準でしかない。
「これがのぞましい」と推奨されているということは、それが使いやすくて人気があって一般的だったとは限らなくて、バカ長い竹刀みたいに、ほっとくと収拾つかないから標準を作ったのかもしれない。
制限速度40キロという標識があったからといって誰も守ってなかったり。
道具関係
バイクでも登山靴でもそうですが、道具屋さんというのは恐ろしいもので、修理に出すと、手首が硬いですねとか、右手で打ってますねとか、道具を見ただけで癖を一瞬で見抜いてしまう。
道具屋さんが、「末長く使っていただくための注意点」「これだけは御自分でやっていただきたい手入れ」などというパンフレットを作っていたり、また、軍隊放出品の店だと実際に従軍経験のある方が店をやっておられて、納品書にかなり具体的なアドバイスを書いてくださることがあり、これが、ものすごいヒントの宝庫です。
明治大正くらいなら、道具やその素材の科学的な研究が本になったものが結構あり、こうした資料もできるだけ収録していきます。
賞詞、感状
将軍や大名に演武や試合をお見せしたり、実戦に参加して顕著な働きがあったりして、よくがんばった、感動したっ!というのを紙に書いてもらったもの。
これがあると、伝説ばっかりで実体の少ない達人が、何年何月に実在してて名声が高かったことがわかります。
これは履歴書の賞罰欄、つまり就職時のアピール材料になるものだから、発行してやろうと言われても拒否する場合もある。別の家に再就職するつもりはない、わが主君が滅びる時はわが一族も滅びるのだ、という意気込みです。
また、敵側からもらう「返り感状」というのもある。私をこれだけピンチにしたあなたはたいしたもんだ、という敵からの賞賛です。謙信公が、自分を刺した兵士を斬り捨てたが、のちに、その兵士が一命をとりとめてまだ存命だと知って、その時の槍の跡のある服と共に一筆書いて贈ったことがありました。
日記
その時代の日記、特に有識者や知識層の。
私的なものだから、偏見も入ってるかわりに、遠慮なく悪口を書いてあったりして、やはり鵜呑みにはできないにしても別の説や裏側がわかる。
少なくとも、その武芸者が好かれていたか嫌われていたかはわかります。
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第三者一級文書
戦争や御前試合の勝敗、藩の役職名簿、過去帳など、客観性や公平性が(どちらかといえば)ある公式記録。
佐々木小次郎先生は即死じゃなくて試合後に殺されたとか、この藩はどうして槍の師範ばっかりこんなに召し抱えてるんじゃ?とか、それほど名門でない流派がある地域ではシェア独占だったりとか、これまた興味深い。
ただし、公式といっても絶対に正しいとは限らない。
ひいきにしてる藩では、おかかえの武芸者をやたら持ち上げていたり、ヨソの藩の達人を横取りしたのを返せと言われて行方不明や死んだことにしちゃってるフシがあったりもする。
権威ある2つの文書が、ぜんぜん逆のことを言ってるなんてことも多い。
歴史というと、学者さんは頭がガチガチで、皇室や中国韓国や東大京大に遠慮していて、市井の研究家が出すトンデモ本こそが真実…みたいな空気もありましたが、ここ20年くらいで考古学は劇的に進化してるんで、そうでもなくなってきており、どれが偽書でどこが後世の加筆なんてことが次々にバレまくってます。
しかし、あきらかに間違っている説もなかなかハッキリとは否定しにくいのが武術界ではあります。
書簡
手紙です。
そのまま一冊の技法書や哲学書にしてもいいくらい、貴重な教えが列記してあることがあるし、これまた私的なものだから、つつみ隠さず書いてあって興味深い。
モーツァルトの手紙なんて、あのメーカーの楽器はいいぞとか、すでにあんたにはいくらの借りがあって悪いんだがいつまでにいくら送ってくれとか、ウンコウンコウンコってしつこく書いてあるのもあるんです。
後世まで残って天下にさらされるとは思わないから、我々も、臭いラブレターから人の悪口まで、ついつい書いちゃいますよねえ。
それだけに真実の歴史ではあり、誰がいつ誰と交流していたかがわかる。
長い間、山本勘介公は創作された架空の人物だろうと言われてきたんですが、未発見の信玄公の手紙が見つかって、その中に名前が書いてあったので、そんなに偉くはなかったかもしれないが信玄公の使者として口上を述べに行くくらいの身分だったこと、少なくとも実在の人物だったことは証明できたりするわけです。
ただし、たまーに偽書もあります。
武蔵先生の絵は贋作ばっかりだから、ひっかかる人は少ないでしょうが、鉄舟先生の書は真筆がやたら多いものだから(贋作も負けず劣らず多い)、ひょっとしたら!?と飛びついてしまうんだそうです。
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