空軍糧食

航空機搭乗者ニ給スル糧食、航空増加食、航空食。
飛行機乗りのための特別食です。

空軍は一番いいものを食べます。
どうせ出撃のたびに半数くらいは死ぬとか、さまざまな理由があるのですが、乗員の体調が、飛行機の性能にデリケートに直結するからです。

空気の薄い所で血の気が引くような加速度をくらい、自分が今どうなっているかを立体的に考え、逆光の中の何キロも離れた敵機を肉眼で探し、こまかい計器を見ては相対的なことをチマチマ暗算し、分業ならまだいいが、たいてい全部を一人で判断しなければならず、いったん離陸したからには休憩とか降参っていうのが実質ありえない。

桜花だろうがゼロ戦だろうが、人間が、兵器の一部なんです(どうせ撃墜されるものなんだから、今では偵察なんかはもうラジコンでやったりもします)。
心身を酷使する激務だから、若い人がやることになり、育ち盛りだから、なおさら食わねばならない。

 

 常時航空糧食

平時か、それほどきつくない戦時に、地上で食べる分。

軍用機っていうのはただ飛んでるだけでもつねに地上からポンポン撃たれるわけですが、ただの飛行機だって、人間は鳥じゃないんだから、飛んでるってことはつねに落ちる危険と一緒に飛んでいる、つまり半分死にかけてるわけで、ただただ疲れるから、飛行機乗りだというだけで普段から肉や卵や牛乳などを追加されます。優遇されてる。

運転かわりますっていうのが自動車ほど簡単じゃないから、おちおち風邪もひけない。
いくら飛行機があっても、操縦士がいなかったら戦力にならないんで。

それと、スクランブル発進の待機をする人たちなんかは、食中毒で全員が倒れるわけにいかないから、2人いたら違うメニューを食べるようにしていることがある。
救助ヘリの操縦士なんかは特にそうです。

 

 航空時増加食

長時間、高高度、空戦など、特に大変な飛行をすることがわかってる人の、地上での食事。

飛行中に、なるべくトイレの問題が発生しないように、水分など工夫されていたりする。

あとはオナラとゲップの防止です。
上空は気圧が低いから、胃腸のガスが膨らんで気絶することがある。
父に言わせると、麦でも腹が張っちゃってダメで、イモなんか絶対ありえない、とのことです。本当は、脚気予防に麦を混ぜなければいけないものらしい。

あと、上空では酸素マスクをつけるから、息が臭くなるものは気持ち悪いからよしておくというようなことがあるらしい。
航空兵が鯖を食べないっていうのは、当たるだけではなくて、臭いからだという。

 

 機上航空糧食

機上携行食。機上食。航空弁当。
飛行機の中で食べるものです。

アルマイトの弁当箱大小2つに、ゴハンとおかずを詰めた、普通〜〜の弁当の場合もあります。
旧日本軍では、日清戦争の時にスプーンと箸、日露戦争の時に弁当箱をアルミ化したという。

しかし、ゆれる狭い所で食べるから、航空兵はできるだけ片手で食べられるものにする。
おにぎり(小さめ。2口サイズの俵型)、おはぎ(同)、海苔巻(やはり細め)、稲荷寿司、サンドイッチ、ハンバーガーなど。

上空は寒いので、毛布や保温袋でくるんだり、茶箱みたいな二重ブリキの保温箱に入れたりする。

竹皮でくるむか、折詰にするかで、簡単な包みの場合、または果物などそのまま持っていく場合、上空は乾燥するから、ラップしていくというか、ラップがない時代はパラフィン紙や硫酸紙でくるんだり。

重爆撃機のような大所帯だったら、「保温配食器」という保温装置が備え付けになっていて、全員の2食分が、ちゃんと食器で出されることもあるらしいです。
旧日本軍ではカレーかハヤシが多かったらしい。

 

 航空元気食?

正式な名前がよくわかりませんが、父の部隊では、航空元気食と呼んでいたという。
よく法事の時に出る砂糖の固まりのような菓子で、外側にもびっしり砂糖がまぶしてあるもの。
これを食べることによって血糖値を上げて、ここぞという時に元気を出すんだそうです。

 

 機上飲料

機上航空糧食の、飲み物。

暖かいものは、水筒ではなく魔法瓶で持っていく。
ただし、中身はお茶とは限らず、コーヒーや紅茶やココアだったり、味噌汁だったりカレー汁だったりする。

ビン入りの、サイダー、リボンシトロン、ボルドー(という名前の炭酸ジュース)を持っていくこともある。
旧日本軍ではサイダーが多かったという。
ゲップは危険じゃないのかよと思いますが、一説には、清涼飲料水やシャンパンには酸化防止剤が入ってるので、すぐにゲップさえすれば、そのあとは、かえってオナラを防いでくれるっていうんですよねえ。

そのほか、牛乳、缶入り甘酒なども。

これらはたいてい、市販容器のまま持っていく。
敵機来襲のたびに麦茶を煮出していたら、間に合わないからです。
市販容器のままっていうスマートさが飛行機乗りのステイタスなので、市販のジュースがなければ、ただの水を、ジュースの空き瓶に入れて持っていくこともよくあったという(笑)

ただし、カルピスだけは、昔はカルピスウォーターがなかったから、うすめて水筒で持っていったそうですが。
戦時中でも、カルピスは初恋の味とかなんとか言われていた。

外国の軍隊では、ワインやウイスキーを水筒に入れていることもある。
上空は気圧が低いので、酔いが回りやすく、酒は禁じられている場合もあります。

身分によっても少し違う。
うちの父は、い〜っつも、ただの水や湯だったそうです。将校にはジュースが出てたらしいですが。

部隊ごとの考えもあったようです。
どうせ撃墜されるんだから、死に水なんだから、最後くらいは10代の少年が一番飲みたいものを飲ませてやれ、っていう考えと、もう一方では、必ず生きて帰ってこい、ジュースなんかじゃ傷口を洗えないぜ、血がタレて目に入ったらどうする、という考え(登山の世界でもよくそういうこと言って水筒の中身を真水にする)。

 

 航空応急食

機上応急食、応急糧食、不時着糧食などの総称。

 

 機上応急食

急に出撃することになったため、煮炊きして弁当を作ってるヒマがないから、駄菓子みたいな乾物で揃えた機上食。

ビスケット、ウィスキーボンボン、アンズのヌガーやゼリー、勝梅(という商品名の乾燥梅干)、チューブ入りチョコレート(海軍ではウィスキーか焼酎をねり込んだもの)、キャラメル、金平糖、氷砂糖など。

あと、「水を吸わせるとふやけて餅になるもの」とか、「みすず飴(というのが長野県にあるんです。フルーツゼリーがオブラートでくるまったようなやつ)のようなもの」があったらしいんですが、父の説明がヘタクソで、何度聞いても、どういうものなのか全然わからない。終戦時に手土産として持ち帰ったら、とても珍しがられたそうです。

 

 応急糧食

航空弁当と機上応急食の中間または折衷くらい。
五目飯や稲荷寿司などを缶詰にしたもの。

戦略的または長距離の、爆撃や偵察ならともかく、戦闘機が迎撃にあがる時っていうのはいつだって緊急発進なのだから、そのたびにいつもパサパサした菓子ではなんなので。

 

 不時着糧食

大昔は、非常準備航空糧食と言いました。空軍のサバイバル食。
不思議なことに、機上応急食よりも食事らしい食事であり、菓子ではなく、乾パンと缶詰を中心に構成される。

飛行機に備え付けておく場合は、水に浮く防水容器に入れてあって、飛行機の大きさによって、6食パックか16食パック。
父の時は、ひとりひとりが身につけていたそうです。

 

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