戦争と戦闘の勝ち負け、作戦の成否

勝敗とは、「何に対してどの概念で勝敗か」というのがあって、いわゆる「勝負に勝って試合内容で負けた」みたいなのがたくさんあります。

人質を救出するために出動して、作戦は成功したが、民間人がたくさん巻き込まれて被害が出たとか。

領土は増えたが、異民族を取り込むことになってしまい、難民問題で悩まされて、トータルでは損をしているとか。

内戦なので、破壊すればするほど儲けが減っていくとか。

敵国を併合したが、敵国出身者のほうが多数派しかも大統領を輩出しちゃって、逆にこっちが併合された格好になっちゃったとか。

勝った国のほうが戦死者が多いとか(…これ、よくある)。

情報取りが目的なので、殺しちゃったら失敗とか。

油断させておびき寄せるのが目的の部隊なので、負けて退却して追いかけられるのが仕事とか。

手を出せば絶対に勝てるが、今ここで小さな勝利をあげるよりも存在を知られないほうがあとあと便利なので、助かるものも見捨てておくとか。

 

 占有、専有、占領

占有は、所有すること。
へんなたとえですが、スリが、人のポケットから財布を抜き取ったが、あんまり小額で気の毒だったので、気付かれないように返したとしても、いったん支配下に置いた、こちらの一存でどうとでも好き勝手にできる状況にあった、という意味では、所有してしまっている。
兵器を拿捕したが持ち去らず、トラップを仕掛けて置いていったなんていうのも、敵の側に渡っちゃっているわけです。

専有は、共有の逆で、ひとりじめ。
水源とか灯台とか、敵も味方も使うものは、敵には使わせないようにしないと、専有してるとは言わない。

占領は、陣地で言う場合、自分たちのものになっただけでなく、シメる(奪い返されないように固める)か、そうしつつあるものを言います。
ただ奪っただけでは制圧。
敵の施設や兵器をかっぱらって使っていることを「消毒済」などと言うこともある。

 

 制圧、確保、掣肘、処理、クリア

制圧は敵の能力を無効にすることですが、一時的なもの。
ニュートラリゼイション、つまり中和しただけなので、こっちの色に染めた(占領下・支配下に置いた)というわけではないから、時間がたつほど簡単に回復されうる。
これは消防署でも同じで、メラメラ燃えさかってる火をとりあえず消し終わるのを「鎮圧」、その後も水をジャージャーかけたり細部を点検して、くすぶっている内部の見えにくい残り火まで全部処理するのを「鎮火」と呼んで区別してます。

確保はホールド、手中に納めるということだから、制圧よりも少なからず永続的。
敵に取られると大いに困る重要地点を死守してるとか、探してた人や物にありついたとか。

掣肘は、敵にちょっかいを出して釘付けにするとか、邪魔をして本来の目的をやらせないことをさす言葉で、まったく一時的な状況。

処理は、有刺鉄線でも爆弾でも故障でも人命でも苦情でも、とにかく始末すること。

クリアは、うまい訳語がありませんが、邪魔なものやハッキリしないものを片付けて、見通しを明らかにするということです。
その地域に敵が隠れていないことを確認した、隠れていた敵は全部見つけて始末した、というようなこと。
米軍にスカイクリーナーという対空砲がありました。
うちの父は制空権を取れないことを「食い尽くせない」とか「どかしきれない」とか言います。

 

 機能停止、粉砕、崩壊、陥落

機能停止(ダウン)は、役に立たなくしただけ。

粉砕(クラッシュ)は、徹底的に破壊して機能停止。

崩壊(コラプス)は、機能はもちろん、機構や体制ごと破壊している。

陥落(フォール)は、要塞などが落ちること。

いずれも回復の余地があるかどうかを問わない。
勝敗がつくとは限りません、勝敗の手段にすぎない。

 

 撃破、打破

撃破(ディフィート)は、相手を負かすこと。

打破は、将来の野望を未然に消し去るワイプと、今の地位から引きずり降ろすオウヴァースロウがある。

いずれも、こちら側の勝利とは限りません。

 

 駆逐、撃滅、壊滅、放逐

撃滅、壊滅(ディストラクション)は、撲滅という意味での駆逐。
回復不能までやっつけちゃって、もはや、この世に存在していない。軍隊の場合、半数の損耗をもって、回復不能とみる。

放逐(イクスペル)は、追い払う、追い出すという意味での駆逐。

 

 全滅、殲滅

全滅(トータル・ディフィート)は戦闘機能が全部失われた状態。軍隊の場合、3分の1の損耗で全滅といいます。勝てる能力がもう無いからです。

殲滅(アナイアレイション)は、一人の生存者もいない皆殺し。

 

 玉砕、名誉の戦死、バンザイ

玉砕は、最後の最後まで全力で抵抗した上での全員死亡。
あきらめるとか降参するということがなく、戦い続けて死ぬまでやめない、しかし、それが偉いのかどうかは国と時代による。

もともとの意味は、文字どおり宝玉が砕けることであり、価値ある者を失う、惜しまれる死です。
日本の場合、玉砕をしたから宝玉なのであって、そういう死に方をしたから価値が出た、いさぎよく死ななかったら価値がない、死んだから偉いという、まあおかしなことになってます。

日本以外にはあんまりないことだから、ちょうどいい訳語がありません。
オーナブル・デスと訳されることがありますが、これでは単なる「名誉の戦死」にしかならない。

名誉の戦死なんつったら、もう、ろくでもないのが山ほどありますからね!
頭の悪い無謀な作戦の美化とか、なんにもなりゃしないバカだけど階級だけは偉いとか。

玉砕は、勝てるわけがなかった、むなしい、集団の死、という要素があって、このへんをうまく表現する言葉は、バンザイくらいしかないと思います。

 

つづき 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送