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殿
武士同士は殿で呼び合います。
日本の武士は平等意識があったようで、お仕置きで手討ちにする時でさえ、脇差は帯刀させて、自由に反撃させていたそうです。
7人の浪人が、この中から誰かが出世したら他の者は家来になって盛りたてようと誓いあい、北条氏とその重臣たち「御由緒家」になった、というようなこともおこなわれていた。
家康公も、軍事政権の君主になるか家臣になるかは運にすぎない、というようなことを言ってます。
なぜなら、どんな下っぱの武士も、本来すべて天皇または朝廷の(あるいは国家、社会、もしくは正義、秩序の)家来だから。
国の財産である国民を、武士が勝手に私物化し、家来にしたり切腹させたりっていうのは、慣例化しちゃっていたけど本当はまずいわけです。
将軍というのも本来は臨時職なので、幕府は常設するものじゃない。
錦の御旗を持てば合法的に政府転覆できました。
サムライという言葉は、主君にさぶらう(そばに待機する)という意味で、武士の文章がなんとかでソウロウというのはこれです。
早いわけではないのだ(笑)
ただし現在では、殿というのは、役所や法人が公文書を発行するような時の、事務的または高圧的に見下した言い方であり、敬意が薄いとされてます。
武道やってるからといって、手紙の宛名に「なになに殿」と書くのはガキだけ。
閣下、御館様、御大、棟梁、頭領
しかし、組織というのは指揮統制のために厳密な階級制度が必要で、将官クラスの指揮官は特に閣下と呼んだりします。
イタリアでは、「カッカ」はクソッタレみたいな意味があるので、閣下万歳とか叫ぶと侮辱になるそうです。
甲斐武田家の名簿を見ると、当主と嫡男が公、当主の弟の一部と貴人息女が様、当主の親戚は大部分が殿、あとは敬称略という感じになってます。
御館様は、司令部を構えて家臣団を持ってるくらいの親方様。
御大(おんたい)は御大将の略。
棟梁は建物の重要部分であるムネとハリで、大工の頭領のことですが、武家でもよく言います。
総領、惣領
跡取り息子のことです。
普通は長男ひとりだけ。
うちの親族会議では惣領と書くほうが一般的です。
兄弟で分割していくと領地が狭くなる一方なので、室町時代くらいから、分家を作らずに長男が全部相続するようになってきて、江戸時代にはなおさらそうしてました。
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部屋住
ヘヤズミは、世帯主に同居している男性のうち元世帯主ではない人です。
敬称ではないので注意。
2種類ある。
ひとつは、まだ相続していない総領。
いわば郵便ポストが父の名で出ていて、息子は併記されてる状態。
ただし武家はあんまり表札を出しません。
なに町は大部分が誰の下屋敷とか、門の建築様式で何石くらいとか、だいたいわかるからです。
もうひとつは、長男が家督を全部継いでしまう場合の次男以下。
他家へ養子に行くか、長男が子をもうけずに死なない限り、実家で飼い殺し。
暴れん坊将軍がお忍び時に自称してるやつです。
長男の子に「迷惑叔父」などとバカにされ、つまらないから愚連隊を作ってグレる旗本もいました。
現代で言うパラサイトとかニート、ひきこもりや不登校に近いニュアンス。
曹司、曹司住、御曹司、公達
ゾウシは朝廷の官吏の部屋や、公家や武家の子ども部屋や学生寮。
そういう部屋の主がゾウシズミで、ほとんど部屋住と同義、略してこれもゾウシとも言い、丁寧に言えばオンゾウシ。
御曹「子」と書いても間違いじゃありませんが意味が通らない。
御曹司は、武家ではどちらかといえば総領をうやまった代名詞、どちらかといえば源氏で使います。
現在では、社会的経済的に地位が高い親を持つ青少年、それも甘やかされて苦労を知らず遊んでいるという意味で使われることが少なくないので、バカにした感じに聞こえることがある。
平家では、キンダチという言い方のほうが一般的だったようです。
御部屋様、家事手伝い
女官の部屋も曹司ですが、女性は御曹司ではなく御部屋様、ただし側室をさす場合が多い。
現代では、生家にいる娘のうち、婿養子を取るなら家付娘、学生でない未婚の無職なら家事手伝いなどと言います。
芸能界で、プロ野球選手などの婚約者や新婦の肩書が「家事手伝い」となっていた場合、本当は風俗嬢やホステスだが詮索しないでくれ、という暗黙の了解になってます。
好きあって結婚するんだし、水商売だって世間の役に立ってる立派な職業であり、べつに隠すことじゃないのに。
→つづく
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