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 鉄を削る

中国は、鋳造に関しては世界一です。
真っ赤になった金属をいちいち叩いて1つ1つ鍛えて作るんじゃなくて、ドロドロに溶かした金属を型に流して一気に大量生産するということです。

古い資料ですが、第二回国際冶金史学会での、華覚明教授の『中国古代の金属文化の技術的特徴』という講演の概要が、田口勇博士の『鉄の歴史と化学』裳華房1988に掲載されてます。
この学会、86年に河南省鄭州市で開かれたもので、中国科学院自然科学史研究所の教授が言うことだから、そりゃ中国の偉大さを強調するでしょうが、たしかに偉大なものはしょうがない。

ヨーロッパでは青銅器時代の晩期でさえ、まだ鍛造でやっていたが、中国では新石器時代の末期から鋳造していた。
ヨーロッパでは14世紀になって、やっと鉄を鋳物で作れるようになったが、中国では戦国時代にはもうやっていた。
他の国よりも1500年から2000年くらい、技術が先を行ってたっていうんですよねえ。

つまり、それだけ温度の高い炉を作れて扱える技術と、さらに、鉄を鋳物にしただけじゃもろいから、壊れにくく作る技術が要る。

さらにもうひとつ、表面を仕上げる道具がないわけがないだろうと俺は思うんですよ。
鋳型で作ったら、タイヤキみたいに、
合わせ目からはみ出した耳がつくでしょ。
タイヤキなら御得感があっていいかもしれないが、工業製品だったら、これを削り取らなきゃならぬ。

その削り器具に、長い柄が必要かどうかは、また微妙ですが、この話は後述します。

 

 ヤスリ?

‘金産’はヤスリだと書いてる辞書も多いですが、なんだか釈然としません。

『説文解字』が、‘金産’のことを
『■(金へんに集)也。一ニ曰ク、鐵ヲ平グ』
板状の金属である、一説には鉄を平らにする、と説明している。

もしかしたら、もともとはヤスリなんて意味はなくて、鉄を削るノミ、バイト、タガネ、キサゲだったのでは?
『中日大辞典』では、タガネで削ると言ってますよ。

たとえば、あなたがプラモを作る人だったら、パーティングラインを消したり、バリを取ったりする時、ヤスリでやってますか?
接着の合わせ目ならパテ盛ってヤスリかもしれませんが、型の合わせ目だったら、鋭い刃物を立てるか、鈍い刃物を寝かせて、こすって、こそぎ落としたほうが、一発で取れてカスも片付けやすいんじゃないですか?

ヤスリも鉄を削るから、という理由で、後世の人がヤスリという意味をあらわす時にも、‘金産’という文字を使ってしまったのか。

あるいは誰かが、「鉄を削るもの」と聞いて、「鉄を削るものといえばヤスリだぁ! ヤスリに違いない!」と、勝手に、ヤスリという言葉をどこからか持ってきて、ヤスリのイメージで説明したか。

よくあることなんです。
もともとの意味はそうじゃなかったが、「転じて」こういう意味にも使われるようになったとか。
音が似ているという理由で、別の漢字の「代用」に使われるようになったとか。
漢字を輸入してから、「日本では」中国人の使い方とは違う意味に使っているとか。

 「ちょうな、かんな」
 「ちょうな、かんなの類」
 「木を削る道具」
って、辞典によってニュアンスが違うでしょう。

 「牛肉」
 「牛肉などの肉、…牛肉も含むかもしれないが牛100%ではないかも」
 「ただ単に肉、…誰も牛肉とは言ってない」
って、えらい違いですよ。

もっとこまかいことを言えば、削るっていうのは、すくい角の正負、構成刃先の発生の有無、掻き取ってはがしているのか、切り込んで切り取っているのか、摩擦で粒子をこすり取っているのか、いろいろ違うんです。
そういう工学的な違いを、古代の中国人がわかってて漢字を作ったかどうか、漢字を使う人がみんなわかってて使い分けていたかどうか。

ヤスリは、ヤスリなんだから、ヤスリです。
ヤスリは普通、「鑢」だと思うんですけど、この文字は、こすって磨くというニュアンスだから、削り取るというよりは仕上げ、パーティングラインよりも鋳造のザラザラ肌を磨くような雰囲気ですよね。

磨くと言っても、グラインダーやダイヤモンドからトクサや鹿革までいろいろあるわけで、中国人が、しかも明の時代に、どんな道具を使って、それをどんな漢字であらわしていたかというのは、なかなか面倒なことです(俺が調べるのが面倒という意味)。

 

次回は、ヤスリではない削り器について。

 続く→ 

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