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 沙悟浄の杖は、沙羅双樹?

岩波版『西遊記』の注は、こんなことも述べておられる。

『呉剛が……魯班が……---呉剛とは、唐の段成式『酉陽雑俎』巻一の「天咫」によれば、仙術を学んだけれども過失のため月に流謫され、そこでいつも月桂樹を斫らされているが、斫っても斫っても再生するので、永遠にこの作業をやりつづけなければならないらしい。すぐ前の句に見える「月の梭羅の木」は月桂樹とは一致しない(梭羅は「あおぎり」とルビをつけておいたが、ここでは釈迦涅槃の地に生えていたという沙羅双樹のことだろう)。』

「過失のため月に流謫」「永遠にこの作業を」に関しては、後述します。

俺の読み方が悪いのか、どうして沙羅双樹なのかが、よくわかりません。
羅しか合ってない。

月桂樹でないのは当たり前だが、月から持ってきた「梭羅の派(えだ。枝)」だと原文が言っているのに、なんで沙羅双樹なのか。

平凡社版のほうでは、梭羅は『普通には沙羅と書く』と注がついてますが、沙羅と沙羅双樹も、また違うものです。

月桂樹と、月桂と、日本の桂と、中国の桂と、インドの沙羅と、日本の沙羅と、沙羅双樹は、ぜーんぶ別のもの。

とりあえずでも、ふりがなを「あおぎり」にした理由が、これまた、わかりません。
前述のとおり、桐の杖ではますます葬式杖になっちまう。

 

 月桂樹

クスノキ科。
よくカレーに入ってる邪魔くさい葉っぱ、ローリエです。
編んで冠にして、スポーツの優勝者がかぶったりする。
ギリシャ神話によく出てきますが、沙羅双樹に共通するような話は聞いた事がないです。
なにかあるんでしょうか?
どちらかといえば、
災難よけ、特に雷よけ、病気よけ、空気の清浄化などの、ゴリヤクがある吉祥木です。

およそ御不幸とはかけはなれていて、降魔の杖の材料にふさわしいくらい。
しかし、竹や桐を葬式杖に使うんだったら、葬式杖だからといって御不幸っぽい木がいいというわけでもないようですが。

 

 オリーヴ

モクセイ科。
どういうわけか、これが月桂樹だと勘違いしてる人が多いです。
自分の花粉ではほとんどダメで、別の遺伝子の花粉でなければならないので、
2品種以上を隣り合わせに植えなければ収穫できません。
5500年前にはもう栽培を始めていたとかで、大昔の人類もこのことはうすうす気付いてただろうから、このへんが
「双樹」という概念の元ネタになってる可能性も、全くないわけじゃないと思うんですよね。
インド・ヨーロッパ語族なんていうくくり方がもし本当で、地中海と交流があれば、あるいはシルクロードでギリシャとつながっていて、仏像だかギリシャ彫刻だかわかんないものを作ってたからには。

 

 月桂

実在しません。月に生えている空想上の木。
だから、これなんだろ? 沙悟浄の杖は。
劇中に、そう書いてあるじゃないか。

 

 桂

かつら。いろんな意味で使われる言葉です。

まず、一番狭い意味では、カツラ科の桂という落葉樹がある。
腐りにくい材木になるので、舟など水のかかるものに使われる。
たしかに月と水は関連が深いけれども。
加工も簡単なので彫刻科で初心者が使ったり、俺が中学の技術の授業でおぼんを作らされたとき取っ手の部分がコレでした。

しかし、中国と日本では、同じ漢字をぜんぜん違う意味で使ってる場合が山ほどある。
動植物の名前は、特にそう。

じつは中国では、桂と言えば木犀のことです。

中国人が、月に生えてる木を「桂」だと言うなら、月に木犀が生えてることになる。
悟浄の杖の素材が、月に生えてる木ならば、
木犀をモデルにした架空の木ということで、もう決定でしょう。

木犀はモクセイ科で、巌桂ともいいます。
キンモクセイを丹桂、ギンモクセイを銀桂、または木犀の花の黄色いものを金桂、白は銀桂、赤を丹桂という。
このへんは唐名、中国風の言い方です。

桂という言葉は、ある種の香木をばくぜんと総称するときにも使い、ただしこの場合は、どちらかといえば落葉ではなく常緑の木をさすから、話がややこしい。
たとえばクスノキ科の肉桂(にっけい。ニッキ。シナモン)も、桂の一種にくくられる。
モクセイ科には、オリーヴ、ライラック、ジャスミンなど、香り豊かな木が多い。
お香に使うような、かぐわしい木っていうのは、それだけで魔よけになるもので、悟浄の杖が「降魔の杖」だっていうなら、香木かもしれませんね。
そういう意味では、月桂樹も沙羅も香りがいいから、悟浄の杖の候補になっちまいますが。

しかも、桂という漢字1文字だけで月桂樹や月桂の意味があるうえに、これがいつから言ってるのか、日本だけなのか中国でもそうなのか、ようわからない。
「桂冠」と言えば月桂冠の意味になるし、「桂月」「桂宮」など月に関係ある熟語でも桂と書くから、ボンヤリしてると月桂樹や月桂まで桂に含まれてしまうわけです。

モクセイ科といえばトネリコもそう。
世界の中心に大きな木が生えている「世界樹」という思想の、モデルになった木として最有力と言われているもので、弾力がある材木なので、西洋では昔から武器の材料に使われてきたものです。

 

沙羅、沙羅双樹については、次のページで。

 続く→ 

 

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