高翼、肩翼、中翼、低翼

主翼を、胴体のどこにつけるかという話です。
どこに付けるにしても、胴体との接合部はフィレットという板で被って、なめらかな曲面にしてあります。狭く入り組んだ所を空気が通れば抵抗になって損なので。

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上につけるのが高翼です。フォッカーのやり方。
重心が座って、低速でも重積載でも初心者でも安定するけれども、機敏な動作はどちらかというと苦手。
プロペラを主翼につけても地面を叩きにくく、水面に降りても水をかぶりにくい。
翼下に物をたくさん吊りやすいが、整備や補給の人の手が届きにくいこともある。
救難や遊覧などで、胴体の窓から下を見やすい。
胴体の中を積載スペースに使いやすい。
主脚を主翼につけにくく、つけたとしても支柱が長くなるので、強度が要るから余計な重量。
主脚を胴体に収納するのであれば、胴体のスペースを取られるか、張り出しをつけてやらなければならないが、床が地面に近いので荷の積み降ろしはラク(特に車両を運ぶ場合)。人の乗り降りもしやすい。
着陸は難しい。横風でひっくり返されるので、着地したら風上に操縦桿を倒して、頭をすくめるような動作が必要になる。
水上に落ちた場合、すぐに沈没しなかったとしても、胴体がすぐ水面下に浸かってしまう。

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もう少し低い位置につけるのが肩翼です。
胴体の上に翼を乗っけているというより、胴体の横の、やや上のほうにつける。
これも高翼と呼ぶ人もいますが、性質はだいたい高翼と同じであり、次に述べる中翼の特性が少し混じる。
鳥や昆虫など、飛ぶ生物は、みんなこうなってます。

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中翼は、中央にあるわけです。
空気抵抗が最も少ない。これの究極は、全翼といって、胴体がなくて翼しかない飛行機になります。
胴体の中を主翼の桁が貫いている場合、物を積みにくい。
胴体内を空洞にするためには、頑丈にした胴体外壁で左右の主翼をつなぐ、眼鏡円框というやり方になります。翼を胴体側面で支え、胴体側面を胴体上下面で支えるから、胴体の上下に穴を開けにくく、操縦席や爆弾倉の位置を主翼から離さねばならない。
風の谷の近くに工業都市みたいなのがあって、そこのガンシップは、機首先端で操縦してたでしょう? 中翼では胴体の上に操縦席を設置しにくいということです。
強度がないから主翼に主脚を付けにくく、胴体に付けねばならないので、車間が狭くなるか、軸が長くハの字になるか、なんにしても着陸が危ないという欠点もある。

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低翼は、おおむね、高翼とは利害が逆です。
音速ジェットの場合、水平尾翼の役目を邪魔しないように、戦闘機でも高翼にしますが、
レシプロ戦闘機で単発単葉だと、だいたい低翼です。
これなら、主翼構造と操縦席が同じ所にあっても強度が取れるから、小型機でも問題ない。
主翼の後ろに操縦席があっても周りが見えやすい(特に戦闘機の場合は下よりも上を見たい)、翼の負担を胴体に逃がすから軽くても丈夫、胴体の底を翼として使える、などの利点もあります。
低速では少し安定が悪い場合もあり、失速しそうになると振動が出ることもあるが、そのくらい手ごたえがダイレクトで機敏ということだから戦闘機には向いてる。
今では大型旅客機でもこれです。効率がいいから。ユンカース教授の発明のひとつ。

 パラソル翼、ガル翼、逆ガル翼

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飛行艇が水しぶきを避けたいとかで、思いきり高翼にしたければ、胴体から主翼を生やすのではなく、一枚翼を支柱で持ち上げて、胴体がぶらさがる格好にする。
パラソル翼です。

 

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パラソル翼だと、支柱の空気抵抗があるし、主翼の後ろに操縦席がある場合は前上方が見えにくい。中央だけでも低くしたい。これがガル翼です。
これを
カモメにたとえてるわけです。

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逆ガル翼というのもあります。
単発でプロペラが大きい、主脚を短くしたい、視界の確保、爆弾などを補給する人が手が届きやすくて作業が早い、主翼を折り畳んでも高さがかさばらない、要するに空母に積むのに都合がいいなどの理由で、主翼の一部を低くすることです。
低速で安定しないという欠点があります。
本書では、複葉の下翼がこうなってる例が出てきます。

 上反角

翼が、付け根から、どのくらい上に傾いているかということです。
全く平らでは、旋回ということがほとんどできない。
主翼を少しバンザイさせておくと、機体がブレても戻りやすくて直進も安定するんですが、あんまり上げすぎても逆効果になる。

ブレても自然に戻るということがあんまり過剰になると、傾く、戻る、戻った勢いで逆方向へ傾く、また戻る…、という繰り返しの振り子、いわゆるダッチロールになることもある。

安定して前に進むということは、フットワークが悪いということでもあります。
戦闘機など、急に舵をきって機敏な動きをするものは、あんまり落ち着いちゃっても困る。

今の軍用機は、どうせ航法や自動操縦にコンピュータを使っているから、機体はわざと不安定気味にしてあって、それを自動補正して飛んでます。

ジェット機で後退翼だったりすると、安定しまくってしまうので、わざと翼を下げて不安定にする下反角ということもよくあるんですが、軍用機にジェットエンジンが実用化されるのはもう少し後の時期です。

なお、主翼はガッチリ作るとポッキリ折れるので、しなるようになってます。
着地している時よりも、飛行中のほうが、上反角は大きい。

 翼のテーパー

本文中に、翼の縁が、まっすぐか、角度がついているか、というような記述があります。

効率だけで言うと、翼はまっすぐ細長いほうがいいので、グライダーなんかは、めいっぱい細長くします。揚力を生み出すことはほとんど前縁だけでやってるので、その後ろに幅がたくさんあってもなくても同じなので。
しかし強度や速度の問題が大変なので、楕円型のほうがいいということになるんですが、これは製造に手間がかかる。
そこで、テーパー翼(直線的な先細り)という結論になります。

ジェット機ほどは後退翼ということをあんまりしません。
つけ根から先端が後ろに向いてる主翼っていうのは、この時代にもあることはあるんですが、音速を出していないので衝撃波の心配がないから、ほとんどは横滑り防止か、脱出時の足場とひっかかりの理由でやってます。

これは流体力学のものすごく難しい話で、俺もそんなに詳しくありませんが、失速対策(空気の流れを、なるべく効率よく、機体を持ち上げることに使う)、空気抵抗を減らす、揚力や運動の中心と重心のバランス、空戦時にかかる力の分散、下方視界の確保、上反角がつけられない場合の代用手段、翼面積も軽量化も強度もほしいというようなことで、設計者さんが考え抜いて、どのくらい先細りにするかをデザインしてるわけです。

父に言わせると、面積の広い主翼は海軍くさくて大嫌いだそうです(笑)

 

 →つづき 

 

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